「あうん」という船名はネーミングまでにかなり悩んだ。たまたま父親と神奈川県師範学校の同級生だった随筆家で仏画家の小島寅雄先生(1914~2002 鎌倉市生まれ、教員生活を経て、鎌倉市教育研究所長、鎌倉市教育長、鎌倉市長を歴任。1985年得度。良寛の研究者)と昔から親交があり、先生のファンでもあったのでいろいろ相談しているうちに艇名が決まった。船名としては余りお目にかからなかったので大変気にいっていたが、旅先で出会うヨットマンが「普通、船の名前は女性名詞を付けるのがならわしだ」とよく言われたが気にしなかった。船の名前が決まった時、書いて下さったのがこの作品。右側から書いてあるので、デザイナーの小黒襄二さんが先生の許可をいただいて逆さまにした。子どものような純真な書き方が何とも言えない。先生は「あうん」が進水した1ヶ月後に静かにこの世を去った。船を見たいと言われ、ホームポートの西伊豆から江の島へ回航してきたが夢が叶わなかった。
そしてもう一つ。ヨットの先輩で日航の国際線で活躍していたパイロットの村松哲太郎さんが描いてくれた「あうん」のイラストレーション。本職のパイロットだけではなくイラストレーターとしても抜群の才能を発揮する。フレームの他に絵葉書まで作ってくださった。フレームは我が家の玄関に飾ってある。その昔、シングルハンドで五島列島から九州に戻る時、たまたま休暇で乗っていたセスナで上空から「あうん」を撮影してくれた想い出がある。撮影される少し前に「あうん」のエンジンがオーバーヒートして、僕は揺れる船の中に潜り込み懸命になって修理してデッキに戻ったのを昨日の様に思い出す。
思い出はきりがない。取りあえず10回で終了させていただく。あとは僕の胸の中に納めて・・・・。ご協力いただきました方々には心からお礼申し上げます。
2016年07月
「あうん」の思い出⑨ FIELD PRO、ホイッスル、双眼鏡
Nationalのマークがついている小さなロボットのような形。これはFIELD PROというライト。高さは10cmぐらい。その昔、グアムヨットレースに参加した時に「ひなの」のオーナーKさんにいただいた。ライフジャケットの肩に着け、夜間万が一落水した時に下のオレンジ色のスイッチをONにすると上についている細いハロゲンランプが間欠的に光を放つ。船から相当離れていても真っ暗な海の中で落水者の位置が分かる。本来なら救命のための道具の一つ。しかし、ヨットでは落水したら死を意味する。「あうん」に乗り出してからも船に積んでいたが、基本的にオーバーナイト航海はしなかったので数度しか使ったことがない。
下段中。ニコン製の双眼鏡。その昔、東郷平八郎が首から下げていたような立派な双眼鏡。進水時に高校時代の親友がプレゼントしてくれた。重量があるので首から長時間下げていると肩がこりそうだが流石に精度が良い。長距離航海中はよく活躍した。下段右端。ホイッスル。いざという時に使うためにホイッスルはいろいろな物についている。このホイッスルは僕の持っている中でも一番しっかりしたホイッスル。真鍮製なのでちょっと緑青が出ていて吹くのをためらわれるが思い出の品だ。
「あうん」の想い出⑧ GPSとナビゲーションツール
航海では初めに海図を見てコースの計画をたてる。この計画立案が何とも楽しい。行先を決めると海図上にコースのラインを4Bの鉛筆で引いた。製図をする時の道具類が上の写真。懐かしい三角定規セットとディバイダー。初めは白いプラスティックのケースに入ったディバイダーが格好いいと思って購入したが、ディバーダーの先が太すぎるので使いにくく、製図用品売り場で製図用のディバイダーを手に入れた。
昔、教えられた通り、三角定規2つを使っての製図で何年か取り組んでいたが、途中でまたまた「美如佳」のYさんから便利な輸入物のPORTLAND COURSE PLOTTERなるものを買ってもらった。これが至極便利なイギリス製のプロッター。これ以来2枚の三角定規を使うことはなくなった。
下の写真は左からハンドコンパス、ハンディーのGPS2つ。もともとは右端の黄色いGPSを進水時から持っていたが、コース上のウエイポイントを登録したら、500ポイントの容量が満杯になってしまい、古いデータを消去しながら使っていたところに、長崎の「ひなの」オーナーから黒いMAGELLANのGPSをいただき、新規のウエイポインをこのGPSに入力するようにした。
GPSのデータは僕にとっては命を守る貴重なデータだったが、ナビゲーションのやり方がどんどん進化し、どうも人様には役に立たない無用の長物になってしまった。
「あうん」の想い出⑦ 海図
14年間で航海する度に海図を買っていたのでいつの間にか沖縄から北海道、韓国までの海図が揃ってしまった。中には計画だけで実際に行っていない海の海図まである。拡げてある海図は駿河湾の海図。大変お世話になった海図だ。海図はサイズが大きいので拡げては保管できず、丸めておく。丸めた海図を僕は製図用の筒(アジャストケース)にしまって保存した。しかし、筒の直径も限度があるから、枚数が多いと何本にもなってしまう。海図を出来るだけ細く巻いて3本にまとめた。
その昔、ヨットの先輩「美如佳」のYさんに海図の扱い方について指導を受けた。海図の裏側の隅に海図の番号とタイトルを書くよう言われた。(写真下段右端)海図の裏面の一番端に海図の番号とタイトルを書く。裏面の一箇所だけではなく、対角線上に書いておくと沢山の海図を丸めてしまっておいても隅だけ見ればすぐわかるので探しやすい。
写真の下田港、戸田港そして伊豆諸島の文字はYさんから手ほどきを受けた時のもの。
海図は見れば見るほど船で旅をしている気分になる。よく使った海図はしわくちゃになって鉛筆の船が何本も書かれているがそれがリアルで波の音まで聞こえてきそうだ。
「あうん」の思い出⑥ 包丁

包丁の柄に傷がある。プラスチックの柄を何かのはずみで溶かしてしまった記念の包丁。14年間研ぎながら使った。今でも抜群の切れ味を誇る。
「あうん」は名古屋のツボヰヨットさんで建造されたが、進水後、静岡まで回航するのに船には何も備品が載っていなかった。沢山の方々が進水式に駆けつけてくれたが千葉から来たヨットの先輩「KOKOLO」の奥さまがスーパーに一緒について来てくれ、彼女のアドバイスで購入したものの一つ。船の中で使うので先が尖っていない方が良いと言って丸くなった包丁を探した。
キッチン用品は人様に渡してもあまり喜ばれないだろうと思い、船から降ろした。
船の中に備え付けられている道具類は知らず知らずのうちに潮風に晒されていて、金属部分が錆びたりする。しかし、この包丁はステンレスで出来ているので錆びることはなかった。我が家の備品として収まった。
切る物によって一番切れる位置を刃の中にイラストで示しているのが面白い。